印My Original Work Light-novels
Since 2013-12-01
Update 2015-02-28

コアラブ!




俺と巫女と和の神




  (ルビ表示が正しくない場合)


横 縦     並 大 特大     G M
俺と巫女と和の神-1 巫女子に男子-Page4
  次の四限は和教わきょうである。
 和教とは宗教そのものだ。神道しんとうではなく、仏教でもないし、ユダヤ教やキリスト教とも違う。和教は日本人の宗教観そのものといっても過言ではない。
 和教の担当はかなり年配な和服の教師で、体は小さく声が高かった。
 ――余裕で八十歳は超えてるな。
「今日から新上さんが入ったんですね、ついて来られるように頑張ってね」
「あ、はい」
「では、ちょっと聞いてみましょうかね。新上さん、私たちが神というとどんな存在だと思いますか?」
 義也は椅子から立ち上がって答えた。
「えっと、神道とかの八百万やおよろずの神ではなくて、古代日本での神のことです」
「そうですね、古代日本というのは、まあ、言葉の綾としておきましょう。昔も今も、未来も、神はひとつですから」
「はあ」
「もう座って結構ですよ。明確に同じというと語弊がありますが、我々の神とエイブラハムの神は同じものです」
 エイブラハムの神というのは、彼らの聖書にある『YHWH』のことだ。
「キリスト教の神ですよね」
「まあ、どちらかというとユダヤ教の神なのですが、それも結局のところ同じではありますね」
 ユダヤ教の神と、キリスト教、イスラム教の神は同じである。
 日本の初期に存在した絶対神が、大陸の考え方と複雑に混ざり合い、あるいは為政者の都合もあいまって形成されたのが神道であり神道の神々なのだ。
『神』(偏が示)と『神』(偏がネ)の文字を使い分け、『神』は絶対神、『神』では八百万の神を表すことになっている。
「神道での八百万の神は、和教での精霊でもあります。もちろん神とも呼びますね。和教の精霊の中には仏教的な精霊がいたり、ヒンズー教や道教などの神もいます。分かりますか?」
 指名はされていないが、じっと教師に見られていたので義也は答えた。
「よく例に出されるのは、宝船の七福神で、その中には他宗教の神もいます」
「そうです、七福神の恵比寿えびすは日本の神、大黒天だいこくてん毘沙門天びしゃもんてん弁財天べんざいてんはヒンズー教の神、福禄寿ふくろくじゅ寿老人じゅろうじんは道教の神、布袋ほていは唐の仏教の僧ですからね。これらも和教では精霊となります」
 年末年始にかけての日本では、クリスマスを楽しみ、七福神の絵を飾り、初詣と称して神社におもむき、葬式があれば数珠じゅずを手にお経を聴く。それを妙だと誰も思わない。これこそが和教の宗教観なのである。心の広い絶対神だからこそ為せることだろう。
 あえて英語で言うと、日本の八百万の神というのは『God』ではなく『Holy Spirits』であり、つまりは精霊ということになる。唯一神信仰の彼らにとって『God』は『YHWH』だけなのだから。
「巫女たちは、実際は神ではなくこれら精霊と心を通わせることで力を得ます。精霊にも位があって、巫女の能力の違いによって相手となる精霊の位が変わるために、高い能力の巫女は強い力が得られることになるのです」
 精霊の最高神はアマテラスという女神である。唯一神では女神は存在し得ないのだが、女神がいない世界など寂しいではないか。
「さて、新上さん、巫女の能力に係わるものに、四大要素がありますね。それも神の手によるものですが、何か分かりますか?」
「エレメンツ、ですよね、地水火風、でしょうか」
「それはどんなものですか?」
「え? 地は土で、水と火と、風は空気だと思います」
 実は義也の好きな、ある映画からの知識である。
 何と、クラスからぷっと吹き出す声が聞こえた。
 ――ち、違うのか?
「まさか全ての物質が土、水、火、空気で成り立つなどと思っていますか?」
「いえ、ありえません。そういう時代の、非科学的なものだと思っていました」
「そうですか……、全てを構成する四つとは何か、なのですよ。安倍さん、四大要素とはなんですか?」
 マリアは立ち上がるとすらすら答え始めた。
「はい。地、はボソンのうち素粒子に質量を与えるヒッグス粒子、風、はボソンのうち素粒子間の相互作用を伝え運ぶゲージ粒子で、火、はフェルミオンのうち強い相互作用をするクォーク、水、はフェルミオンのうち強い相互作用をしないレプトンを表しています」
「正解です、さすがですね」
 ――いや、いや、素粒子なの? エレメンツって。
 確かにこの四つなら全ての物質を作れるだろうがと義也は釈然としなかった。古の考え方と最先端の素粒子論を一緒にしているのだから。
「これにより、水属性では雷、火属性では炎を、風属性では光や重力を使えるようになります。もちろん、水属性で水を、風属性で風の刃を使うこともできますね。地属性は推定はされていますが、それで何ができるのかはまだ明らかになっていません」
「土じゃないんですか?」
 義也は地属性では土を操れるのだとばかり思っていたのである。
「私たち巫女は神の御力を直接引き出すのではありません。精霊を介してその一端を借り受けるだけなのですが、地の粒子は別名『神の粒子』とも言われるように、特別なものだと考えられています。神は始めに光りあれと言われ、次に天と地を分けられました。地水火風には光も天もありませんが、地のみあるのですよ。それは『神の領域』とも呼ばれているものなのです」
 禅問答のようである。
 だが、義也が一番驚いたのは、この教師が巫女だという点だった。そうか、年老いた巫女だっているんだな、などと義也は多くの巫女を敵に回すようなことを思ったのだが、幸い口に出すことはなかった。
Page5 < 次  印  前 > Page3

【お願い】

 表示が崩れる、動作がおかしいなどの場合は、リロードしてください。


【ご利用のヒント】

フォントについて